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2024.9.25

お知らせ

ナイフのステンレス鋼材21種類徹底比較!【老舗刃物屋のプロが解説!】

今回はナイフの鋼材徹底比較!ステンレス編!

今回も、岐阜県関市の老舗刃物店世界のナイフショールーム山秀が、ナイフの鋼材として主流な、ステンレス鋼材を解説をしていきたいと思います!

「ナイフでよく使用される鋼材」というと、ステンレス以外にも、炭素鋼や工具鋼など、様々ありますが今回は最も主流なステンレスに、まず焦点を当てて解説します。

また、今回特別に「ステンレス鋼材 性能早見表」をご用意しました。ステンレス鋼材にはさまざまな種類があり、それぞれの特徴を比較するのは難しいと感じる方もいらっしゃるかと思います。そんな方のために、性能を分かりやすく一覧表にまとめました。こちらも最後にご紹介しますので、お楽しみに。

1 そもそもステンレス鋼材とはどんな鋼材なのか。
2 代表的なステンレス鋼材 21種類のご紹介。
ローグレード
ミドルグレード
ハイグレード
鋼材早見表の紹介
3 最後にまとめ

筆者・アドバイザー紹介

山秀 店長:マック

ナイフとアウトドアのことなら何でもお任せ! YouTubeでもナイフに関する情報を発信中のマック店長。キャンプや登山が大好きな2児のパパ ナイフ一筋27年の経験を持つプロフェッショナル

そもそもステンレスとは・・・?

ステンレス鋼は、鉄にクロムという成分を10.5%以上添加した合金鋼で、炭素を1.2%以下含んでいる鋼材です。炭素鋼に比べて、錆びにくく、メンテナンスが楽である点がメリットです。 一言で、ステンレス鋼とはいっても安価なものから高価なものまで種類は様々で、性能にも差は出てきます。

比較の観点

それでは次に、具体的なステンレス鋼の紹介です。今回は、ナイフの鋼材としてよく使用されるステンレス 21種類を解説します。21種類と、なかなか数が多いですが、ナイフの鋼材としてよく聞くステンレスはほぼ網羅していると思います。そして、わかりやすく解説させていただくために、性能別に、ローグレード(したから)、ミドルグレード、ハイグレードと 3つに分けました。

鋼材の評価は次の5つの観点から行います。

1 耐食性(錆びにくさ)
2 切れ味
3 耐摩耗性(切れ味の持続性)
4 靱性(刃こぼれのしにくさ)
5 研ぎやすさ

※今回観点の一つに「切れ味」と、入れました。しかし、どんな鋼材でも綺麗に角度をつければ切れ味はでます。変な話、プラスチックでも、綺麗に角度をつけて研ぐと、切れてしまう。ということです。鋼材に「切れ味」という表現は、少し適さないかもしれませんが、硬度 硬さ という意味合いも含めて、今回は切れ味というわかりやすい言葉を使いました。

それでは早速解説へ参りましょう!

ローグレードステンレス

まず、比較的安価に購入できるナイフに使われている、ローグレードの鋼材について。 鋼材の例としては  SUS420J2、8Cr14MoV、AUS-8、440A、440B、12c27、440c をあげました。

SUS420J2

SUS420J2(サスヨンニーマルジェイツー)は、日本の愛知製鋼株式会社が製造する鋼材で、トヨタグループの一員であることから、信頼性の高いブランド力を誇ります。主にテーブルナイフやキッチンナイフなど、耐食性(錆びにくさ)が重視される用途に使われ、医療器具や歯科用器具にも採用されることがあります。切れ味や耐摩耗性(持続性)は他の高級鋼材に比べると劣りますが、日常使用には十分な性能を備えています。

また、ナイフのライナーやステンレスクリップ、ばね材にも使われており、クリップの錆びを防ぐため、耐食性が求められる場面で活躍します。

8Cr14MoV

8Cr14MoVは中国製の鋼材として広く知られています。特定の1つの企業が製造しているわけではなく、中国国内の複数の企業が共同で生産しています。バランスの取れた性能を持ち、耐食性、刃持ち、研ぎやすさが優れています。比較的安価で、コストパフォーマンスが良いことから、中級クラスのフォールディングナイフやキッチンナイフに多く使われています。

近年、この鋼材を使用する例が増え、CRKTやスパイダルコなど、アメリカの老舗ブランドもその良さを認識し、しっかりとテストした上で採用しています。

AUS-8

AUS-8は日本の愛知製鋼が製造する鋼材で、8Cr14MoVと近い性能を持ち、プロ用から日常使用まで幅広く評価されています。刃こぼれしにくさや研ぎやすさが特徴で、日常的な使用から軽度なアウトドア用途まで対応できる汎用性の高い鋼材です。

通称「8A」としても親しまれており、特に関市では包丁やポケットナイフに使われることが多く、錆びにくく、研ぎやすい点でも人気があります。

440A / 440B

次に、440Aと440Bをご紹介します。いずれも日本の愛知製鋼によって製造されています。

  • 440A: SUS420J2よりも刃持ちが良く、耐食性も高い鋼材ですが、価格はやや高めです。
  • 440B: 440Aよりもさらに刃持ちが良く、硬度も高いですが、耐食性はやや劣り、価格もさらに上がります。

440A、440B、440Cというシリーズがあり、Aが最も炭素の含有量が少なく、Cが最も多いという違いがあります。炭素含有量が増えるにつれて硬くなり、切れ味が向上しますが、その分研ぎにくくなる傾向があります。

440Aと440Bは、特に関市からアメリカへ輸出されるナイフによく使用されており、現在でもドイツのBOKERが採用していることで知られています。初心者向けには最適な鋼材と言えるでしょう。

12C27

12C27はスウェーデンのサンドビック社で開発されたステンレス鋼材で、高い靭性(刃こぼれしにくさ)と耐食性を備えています。研ぎやすく、バランスの取れた鋼材として、特に北欧諸国のナイフメーカーに人気があります。Mora Knivesなどのブランドで広く使われており、その信頼性と使いやすさから多くの支持を得ています。特にアウトドアナイフとして優れた性能を発揮します。

サンドビックの中でも初心者向けの鋼材として知られており、日本ではブッシュクラフト愛好者の間でモーラナイフが人気を集めています。

440C

440Cは愛知製鋼による440シリーズの中でも、最も高い硬度と耐摩耗性(切れ味の持続性)を誇る鋼材です。440Aや440Bよりも切れ味が優れており、硬さのため研ぎにくいと言われますが、適切な道具と技術があれば問題なく研ぐことができます。高級なフォールディングナイフやアウトドアナイフ、さらには高品質なキッチンナイフにも使われています。

一部では時代遅れと言われることもありますが、昔から使われ続けており、ランボーナイフにも使用されました。現在でもポケットナイフや大型のボウイナイフなど、ハードな使用に耐える鋼材として人気があり、長く愛され続けています。

ローグレードの鋼材を 1~10段階で数字で評価をすると、こんな感じです。

株式会社山秀 独自調べ

ただ、あくまでこれは、山秀が独自で調べ、店長マックの経験論込みの気持ちもこめての点数です。研ぎやすさ、などこれが絶対というわけではないので、あくまで一つの指標として、ご理解ください。

具体的なローグレード鋼材おすすめナイフをご紹介(サビに強くてお手入れがしやすい初心者向けのナイフ)

https://www.yamahide.com/view/item/000000004623
https://www.yamahide.com/view/item/000000004400
https://www.yamahide.com/view/item/000000002577

ミドルグレードステンレス

次に、一般的なステンレスです。山秀では 1.4116、14c28n、N690、AUS-10、エクシオCR20、VG-10、ATS-34、154CM、銀紙1号 を挙げました。

1.4116

1.4116はドイツのThyssenKrupp(ティッセンクルップ)社が製造するステンレス鋼で、ヨーロッパ製のナイフによく使用されています。特に包丁で使われることが多く、サビに強いのが特徴です。この鋼材は、代表的なマルテンサイト系の鋼材で、ヨーロッパ製らしくやや柔らかめです。

デメリットとしては、日本製の鋼材に比べると刃持ちがやや劣る点が挙げられますが、無茶な使い方をしても刃が欠けにくく、研ぎやすいというメリットがあります。

「ジャーマンステンレス」というカテゴリーに属し、X50CrMoV15などがその代表例です。MUELA(ムエラ)などのナイフメーカーがこの鋼材を使用しています。

14C28N

14C28Nは、スウェーデンのサンドビック社が開発したステンレス鋼で、12C27を改良した上位モデルです。特に耐食性と靭性(刃こぼれしにくさ)が向上しており、多くのナイフメーカーに採用されています。

12C27と同様にバランスの良い鋼材ですが、14C28Nの方が刃持ちが良く、切れ味が長続きします。また、サビに強く、お手入れも簡単です。オイルを塗る必要はなく、汚れを拭き取るだけでOKです。この手軽さから、キャンプナイフの鋼材として非常に優れています。

N690

N690はオーストリアのボーラー社が開発した高性能ステンレス鋼です。カーボンの含有量が440Cよりも少し多く、耐摩耗性とエッジの保持力が優れています。

ヨーロッパでは高級鋼材として知られ、ハイスペックナイフのブレード材として長い間採用されてきました。日本でよく使われる440Cとも比較されますが、それに劣らない使いやすさと切れ味を持っています。

AUS-10

AUS-10は日本の愛知製鋼が開発した高性能ステンレス鋼です。AUS-8の改良版で、より高い硬度と切れ味を持ち、耐摩耗性(切れ味の持続性)においてはこれまで紹介した鋼材の中でも特に優れています。

切れ味が長続きするナイフを求める方には最適な鋼材です。しかし、切れ味が落ちた時の研ぎ直しが難しく、特に刃肉の薄い包丁には適していますが、ブッシュクラフトナイフには個人的には向かないと感じています。

EXEO-CR20

EXEO-CR20は新潟県の株式会社不二越が開発した新型のマルテンサイト系ステンレス鋼で、高い耐食性が特徴です。SUS420J2以上の耐食性を持ち、この動画で紹介するステンレス鋼材の中で最高峰と言っても過言ではありません。

山秀でも注目している新型鋼材で、多くの方にはまだ馴染みがないかもしれませんが、これまで「錆びないナイフ=切れない」という常識を覆す鋼材です。硬度も60HRCあり、その点も素晴らしいです。また、日立以外の企業がこのような高性能な鋼材を出してきた点も注目すべきポイントです。

コラム: 錆びないナイフはどのような場面で使われるのでしょうか?例えばダイバーナイフは錆びないですが、切れ味が悪いことが多いです。しかしEXEO-CR20はカーボンをほとんど含まないため、耐摩耗性に欠けています。

VG-10

VG-10は日本の福井県にある武生特殊鋼材が製造するステンレス鋼です。HRC61と非常に高い硬度を持ち、高級なフォールディングナイフやキッチンナイフ、プロ用包丁にも使用されています。ダマスカス包丁の芯材としても人気があります。

今や日本を代表するステンレス鋼材となったVG-10は、世界的にも評価が高く、キッチンナイフからハンティングナイフまで幅広く使用されています。ただし、薪割りやブッシュクラフトナイフには少し刃欠けのリスクがあるという意見もあります。

154CM と ATS-34

アメリカのCrucible社が製造する154CMと日本の日立金属が製造するATS-34は、ほぼ同等の成分と性能を持つステンレス鋼です。どちらも優れた切れ味と耐摩耗性、適度な耐食性と靭性を兼ね備えており、非常に安定した鋼材です。

1970年代までは154CMが広く使用され、ラブレスも愛用していたほど有名でしたが、ベトナム戦争による軍事需要の影響で一般市場から姿を消しました。その後、1970年代に日立金属が同等性能のATS-34を開発し、1980~90年代には多くのカスタムナイフメーカーに採用されました。現在は154CMの製造は終了し、粉末鋼の「CPM-154CM」として再登場しています。

銀紙1号

銀紙1号は日立金属が開発した刃物用鋼材で、ヤスキハガネ(安来鋼)の一種です。ヤスキハガネは、日立の工場がある島根地方で生産された鋼を指します。白紙鋼や青紙鋼も安来鋼の一部です。

銀紙1号は不純物が少なく、研ぎやすい硬度と手頃な価格が魅力です。日本の伝統的なステンレス鋼で、長年にわたり多くの和食料理人に愛用されています。また、鍛造によりポテンシャルを引き出すことができる鋼材としても知られ、大阪堺の和包丁にもよく使われています。

ミドルグレードに関しても、表にまとめました。

研ぎやすさと刃持ちのバランスが良いのがミドルグレードの特徴です。

ミドルグレードで代表的なナイフを例に挙げると、以下のとおりになります。

https://www.yamahide.com/view/item/000000003513
https://www.yamahide.com/view/item/000000004376

https://www.yamahide.com/view/item/000000004611

ハイグレードステンレス

最後に最上位ステンレス ハイグレードのステンレス鋼材をご紹介します。

鋼材の例としては、CPM-S30V、SPG2 ZDP189、M390 MAGNACUT  をあげました。
ここから紹介する鋼材は、少し研ぐのが難しい上級者向け鋼材とも言えるかもしれません。

順に説明します。

CPM-S30V (アメリカ合衆国 / Crucible社製造)

CPM-S30Vは、Crucible社が粉末冶金製法で生み出した高性能ステンレス鋼です。優れた切れ味と耐摩耗性に加え、適度な靭性も持ち、硬度はHRC 59-61。ハイエンドナイフに多く採用されています。S30Vはバランスが良く、440Cと比較して耐摩耗性が1.5倍、靱性は3~4倍と言われるほどの高性能を誇ります。サビに弱い部分はありますが、研ぎ直しがしやすい点も人気です。

スーパーゴールド2 (SPG2 / 日本 / 武生特殊鋼材製造)

日本を代表する粉末鋼で、切れ味と持続性に優れ、HRC 64-66の硬度を誇ります。高性能ながら研ぎやすく、耐久性と扱いやすさが評価されています。SPG2は420J2とのサンマイブレードとして使用されることが多く、鍛造性にも優れており、叩くことでさらなるポテンシャルが引き出されます。

ZDP-189 (日本 / 日立金属製造)

ZDP-189は、日立金属が製造する超高炭素ステンレス鋼で、切れ味とその持続性は世界最高水準です。HRC 64-66の硬度を持ち、一度刃をつけるとほとんど研ぎ直す必要がありません。加工が非常に難しい鋼材ですが、その性能は他を圧倒します。ただし、靱性が低く、研ぎにくいことが一般ユーザーには扱いにくい面もあります。

M390 (オーストリア / Bohler社製造)

M390は20%のクロムを含み、非常に優れた耐食性を持つステンレス鋼です。海水環境でもサビにくく、HRC 60-62の硬度で、高い耐摩耗性と切れ味も兼ね備えています。ナイフ以外にも、外科用メスや工業用切削工具などにも使用される、プレミアムステンレスとして評価されています。

CPM-MAGNACUT (アメリカ / Crucible社製造)

最新型の高性能ステンレス鋼であるCPM-MAGNACUTは、従来のハイグレード鋼材の欠点を克服するために開発されました。非常に高い耐食性と優れた切れ味、耐摩耗性を持ち、HRC 63-65の硬度を実現。さらに、ZDPやM390と比べて研ぎやすいのも特徴です。

ハイグレード鋼材早見表

ハイグレード鋼材に関しても、山秀独自の観点で点数づけを行いました。 こちらです!

では具体的なハイグレードナイフを紹介します。

https://www.yamahide.com/view/item/000000001358
https://www.yamahide.com/view/item/000000001909
https://www.yamahide.com/view/item/000000004619

後に、今回紹介した指標を全てまとめた、早見表をご覧いただきます。ただ、あくまでこれは、山秀が独自で調べ、店長マックの経験論込みの点数です。研ぎやすさ、などこれが絶対というわけではないので、あくまで一つの指標として ご理解ください。

以上、今回はアウトドアナイフでよく使用されるステンレス鋼材について詳しくお話ししました。

それぞれの鋼材には特徴やメリット・デメリットがあり、用途や好みによって選ぶことが重要になります。今回の記事が新しいナイフを見つける手助けになれば嬉しいです。

ローグレードのものは、安価で、研ぎやすいが、刃持ちが悪い。ハイグレードのものは、価格は高めで、刃もちがいい。しかしその硬さ故に研ぎにくい。そんな特徴がありましたね。

いかがだったでしょうか?今後も刃物やアウトドアに関する情報をたくさん発信していくので、よろしくお願いします。ありがとうございました!!